東京都のワクチン証明アプリ 登録わずか3% 協替店にも広がらず

 コロナ禍での経済再開の切り札と政府が位置付けるワクチン接種証明のアプリが、浸透していない。先行的に始めた東京都の登録者は、2回接種済みの都民をベースに計算しても、わずか3%ほど。20日から始める政府のアプリを巡っても、もとになるデータの不備が発覚した。接種証明は本当に使えるものなのか。(中沢佳子)
東京都の接種証明を案内するサイト

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◆割引、「1杯無料」など特典あるものの…

 都は11月から、無料通信アプリ「LINE」を使った「TOKYOワクション」を開始。氏名や生年月日を入力し、運転免許証などの本人確認書類の画像と、「接種済証」「接種記録書」の画像を送信して登録する。協賛の飲食店や商業施設などで接種の証明画面を見せると、割引などの特典がある。
 ただ登録者は今月13日昼時点で33万4000人余り。都企画政策課によると9割以上が都内在住だが、全員が都民だとしても都内の2回接種者の3%ほどにとどまる。協賛店は約2500店で、飲食店が多い。
 東京・亀有の「お好み焼き もんじゃ嵯峨野」は、都のアプリの証明画面を見せると、来年3月末までソフトドリンク1杯が無料になるようにした。吉田正輝店長は「外食を控えていた人が来店するきっかけにと考えた」と述べる一方、「特典を使う人は1週間で3、4人ほど。どの店でどんな特典があるのか、知られていない」と苦笑する。
 周知以外にも、現場の負担増という問題もある。
 「飲食店にとっては、証明書の提示を促すことは『安心安全な店』のアピールになるが、それには従業員にも接種を促すことになり、雇う条件にすると問題になる。この人手不足の中で、人材の確保も難しくなる」と飲食店コンサルタントの石田義昭さん。
 接種証明ができる人に入店を限ると、「差別だ」と批判されるのを恐れる店主もいるという。「第一、アプリが浸透していない。紙の証明書を見せる客には、厳密なチェックもせずに入店させているのが現実だ」
 協賛店も多いとは言えないようで「特に個人経営が多い飲食店は、日々の切り盛りで手いっぱいで、デジタルにも疎い店主が多い。接種証明アプリに興味がないのでは」(石田さん)。

◆「ご褒美のためのアプリでは意味がない」

政府が20日から導入する新型コロナワクチン接種の電子証明書

政府が20日から導入する新型コロナワクチン接種の電子証明書

 政府も今月20日から同様のアプリを導入する。マイナンバーカードをスマートフォンにかざして情報を読み取り、カード取得時に決めた暗証番号を入力する。政府の「ワクチン接種記録システム(VRS)」と連動して個人の接種歴と照らし合わせ、スマホの画面に表示される仕組みだ。
 ところが、導入前にトラブルが起きた。VRSにある接種データ約1億件のうち、500万件ほどに間違いがあるか、誤っている恐れがあると分かったのだ。(16日現在、433万件)
 具体的には、1回目接種の記録の欠落などがあり、修正されない場合、アプリの画面で表示される証明書に誤った内容が反映されてしまうという。
 接種証明は都や政府のほか、自治体や民間でも展開している。そんな「乱立状態」を、医師で医療ジャーナリストの森田豊さんは疑問視する。
 「証明書を見せれば店で飲める、イベントに参加できるという単純な話じゃない。コロナ禍はまだ収束せず、現状のワクチンがオミクロン株にどこまで効くかの問題もある。それに、ワクチンの効果は最終接種日から5カ月ほどで薄れる。単に2回打ったことを証明する『ご褒美』のためのアプリじゃ意味はない」
 森田さんは何のための接種証明か、改めて問う。「今、接種証明の本質を考える時期だ。次の脅威に備え、個々の接種歴や健康状態を把握する統一した仕組みでなければ」

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