薬がない…薬局からの緊急メッセージ

薬がない…薬局からの“緊急メッセージ”

「何か月待っても入ってこない薬もあります」

薬の安定供給という「当たり前」が今、大きく揺らいでいます。

かつてない医薬品の不足にどのように向き合い、対応すればいいのか。
街の薬局からの“緊急メッセージ”をお伝えします。

(医薬品不足取材班 ネットワーク報道部 村堀等)

全国から届いた355件の声

12月9日の記事(タイトル「薬がない…代わりの薬はどこに」)で各地で薬の供給不足が起きていることをお伝えしたところ、投稿フォームに全国から350件以上の情報やご意見が寄せられました。

多くは思うように薬を届けられない現場の薬剤師、飲み慣れた薬を突然別の薬に切り替えられてしまった患者の声です。

回答を寄せてくださった方々の内訳です。

全国から届いた355件の声

回答者で最も多かったのは「薬剤師」で全体の65%(232件)に上りました。

次に「製薬・流通関係者」が16%(57件)、「服薬中の患者」やその「ご家族」は10%(35件)、「医師」は4%(14件)でした。

“耐えがたい状況”

“耐えがたい状況”
最も多かった「薬剤師」からの投稿は、一人一人の患者と向き合い薬を渡す立場からの「悲鳴」とも言える内容のものが目立ちました。
(埼玉県 20代女性 薬剤師)
「てんかんやアレルギー、血圧の薬まで、メジャーな薬でも入ってこない。あったとしてもいつも来ていただいてる患者さんの確保分のため新規患者はお断りすることもしばしば。毎日患者さんに謝罪している」
(秋田県 40代男性 薬剤師)
「毎日のように『このジェネリックは入荷が未定です』と連絡があり、果ては先発医薬品まで出荷調整になり、その成分が入った医薬品が全く手に入らなくなったものもあります。コロナ禍でなるべく病院に来る回数を減らしたいためか、病院が2か月、3か月分という長期の処方が出されるようになりました。一度の発注数が多くなる。また手に入りづらくなる、という最悪のサイクルに見舞われています」
いつもの薬が入らず、患者に負担をかけざるをえないケースや、患者の健康を心配する声も少なくありません。
(兵庫県 40代女性 薬剤師)
「認知症の方などは薬の見た目が変わるだけでもお薬を間違ったりすることを考えると安易に薬を変えたくはありませんが。。。また白内障などで白い錠剤が見えにくい人は、色の違う薬を使うなどしていましたが、このままでは同じ薬をご準備できないのが心配です」
さらにはこんな深刻な訴えも。
(青森県 50代男性 薬剤師)
「今月(12月)に入ってからは代替のきかないお薬も入手できなくなり、処方医に連絡してやむ無く服用中止となるケースも出てきています。医薬品を適切に必要な患者様にお渡しできないことは薬剤師として耐えがたい状況です」

“症状がひどくなった”

“症状がひどくなった”
一方、患者からは実際に薬が別の薬に変わったケースや、今後への不安を訴える声が寄せられています。
(茨城県 60代男性)
「半年くらい前から、薬剤師さんにジェネリックの薬が不足と言われ、ジェネリックではなくなったのだが、その薬も流通不足になって処方より少ない量しかもらえなかった。年末には手元にある薬が無くなる。代わりの薬が無いようなので不安だ」
(東京都 50代男性)
「ことし春ごろから、いつも服用していたアトピー性皮膚炎の先発薬が、そのまま飲める薬から水で飲む薬に代わり、3か月後にはジェネリックになった。ジェネリック薬のメーカーが行政処分を受けた会社だったので不安が増した」
価格が安いジェネリックから先発医薬品に変わるケースでは、経済的負担を訴える声も。
(東京都 40代男性)
「いつものジェネリックがなく、先発品になってしまい値段が倍増してしまった。発達障害とうつを持っており、障害者雇用で働いているので、収入も少なく負担になる」
さらに、症状の悪化など心配な内容のものも。
(兵庫県 40代女性)
「いつもの薬局で、いつものリウマチの薬が欠品で代薬を渡された。が、どうも効いていなくて、症状がひどくなった

“薬のプロ”を訪ねた

“薬のプロ”を訪ねた
小田薬局東伏見店の皆さん (右)小野啓一郎さん

この未曽有の事態に、どう対応すればいいのか。

最前線で危機と向き合う「薬のプロ」に聞いてみることにしました。

数多くいただいた回答の中で私(村堀)が気になったのは、西東京市の薬剤師・小野啓一郎さんです。
小野さんの投稿は、薬の変更を切り出さざるをえない側として患者を思い苦悩する内容でした。

(小野さんの回答)
「患者さんは薬の変更で頭がいっぱいになってしまい、肝心の薬の説明が耳に届かない。遠くの病院の処方せんを持ってきてくれた新規の患者さんも、医薬品の供給不足の問題から断らざるをえず、かかりつけ薬局とは何なのか心苦しい」
小野さんが勤める薬局を訪ねて、いま私たちにできることを直接聞いてきました。

私たちにできる 3つのポイント

小野さんのお話から、ポイントを3つにまとめました。
私たちにできる 3つのポイント
【1】「かかりつけの薬局」
   でいつもの量の処方を
【2】「薬が急に変わったら」
   飲み忘れ・飲み間違いに気をつけて
不調を感じたら薬剤師にすぐ相談!
【3】「飲む必要がなくなった薬」
   を飲み続けていないか見直す
どういうことなのか、順番に見ていきます。

【1】かかりつけの薬局で いつもの量を

1日に100人余りの患者が訪れる小野さんの薬局は住宅街の一角にある、まさに地域のかかりつけ薬局です。
【1】かかりつけの薬局で いつもの量を
薬の卸から届くFAX 「欠品」「入荷待ち」が並ぶ
ここでも薬の供給は厳しく、卸売業者から届いたFAXを見せてもらうと「入荷次第」や「欠品」といった文字が目立ちます。
(小野さん)
「うちには毎日、午前と午後の2回、契約している医薬品の卸売業者が来て薬を補充してくれます。これまで注文の翌日には薬が届いていたのが1年ほど前から滞る品目が増え始め、今では何か月待っても入ってこない薬もあります」
欠品に備えて青い箱に代替薬を準備

今、小野さんの薬局で扱っている1500品目のうち、内服薬を中心に200品目近くが十分に手に入らない状態。

患者の4、5人に1人はいつもと違う薬を渡さざるをえない状況だということです。

「かかりつけ薬局として、地域で暮らす常連の患者さんに渡す分だけはなんとか確保したい」と話す小野さん。

一方で、次々に不足する薬が出てくるため、代わりにどの薬をいくつ手配すればいいのかを調べるだけでも業務量が増えて四苦八苦してきました。

小野さんが作ったアプリ 薬のシェアや必要量が一目でわかる

小野さんは代わりの薬の手配に使うWEBのアプリを独自に考案。

多忙な業務の時間外に2か月かけて開発し、先月から業務に役立てています。

しかし、自分たちでできる努力と工夫だけでは限界があると感じています。

(小野さん)
「大量の処方せんを持って来られた新規の患者さんがいたのですが、どうしても用意できずに遠くの薬局をご案内したことがあります。本来なら新規の患者さんが来てくれるのはうれしいことなのですが、今はどの薬局も常連さんの分を確保するので精いっぱいです。もちろん急に体調不良になってしまった場合などは遠慮しないでほしいです。でもふだんから薬を服用されている方は、できるだけかかりつけの薬局で、いつも通りの量の薬をもらうようにお願いしたいです」

【2】薬が急に変わったら

【2】薬が急に変わったら
様々な色、形がある医薬品

そして、いちばん気になるのは「いつもと違う薬を処方された時」のことです。

小野さんが注意点としてまず指摘したのは、薬の「色」のことでした。

(小野さん)
「できるだけ色や形が似ていて同じ飲み方の薬を仕入れるようにしていますが、今の状況では難しいこともあります。いつもと違う薬を出されると『色で覚えていたのに』とショックを受ける方が多いです。実際、見た目が違うものに変わると、家に残っていた同じ効能の薬と一緒にいつもの倍の量飲んでしまったり、飲み忘れたりしてしまうリスクがあります」

飲み慣れた薬との色や形の違いが思わぬリスクになりうる、ということです。

そうならないようにするにはどうすればいいのか。

基本的なことのようですが、まずは「薬局での説明をよく聞くこと」だということです。

(小野さん)
「飲み忘れて症状を改善できなかったり、逆に飲みすぎて副反応が出てしまっては大変なので、いつもと違う薬を提示されたときこそ、薬剤師の説明に耳を傾けてほしいんです」

確かに、薬ってただでさえ処方されたとおりに飲み切ること自体、意外とできないものです。

飲み忘れ、飲みすぎを防ぐコツも話してくれました。

(小野さん)
「心配な方は、翌日に飲む分を前の日に小分けにして準備しておくことをお勧めします。ただし湿気に弱い薬もあるので、準備するのは1日分だけにしておいてください。それから薬の保管は、薬局から渡された時の袋に入れたままにしておくのが基本です。飲み方が印刷されていますし、吸湿性にも優れているんです」

たくさんの薬を飲む高齢者などの場合、負担額は増えますが、薬局で1回分ずつ小分けにする『一包化』も可能だということです。

また、投稿フォームでも患者の一部からは「代わりに出された薬の効きがよくない」とか「体調が悪くなった」といった声もあがっていました。

実際にそうなってしまった場合にはどうしたらいいのでしょうか。

(小野さん)
「基本的には同じ成分の薬であれば同じ効果が期待できますが、体質や他の薬との飲み合わせで、代替薬が合わないという方も一部にはいらっしゃいます。供給の問題があるのですぐに元の薬に戻すのは難しいかもしれませんが、代替薬を飲み始めて不調を感じたら気兼ねなく薬局・薬剤師に相談してください」

【3】“飲む必要がなくなった薬”の見直しを

【3】“飲む必要がなくなった薬”の見直しを
多剤を服用する患者の薬

ここまで2つが主な注意点です。

そのうえで小野さんに「この機会に伝えたいこと」を尋ねたところ、“飲む必要がなくなった薬”の見直しを挙げました。

とはいっても誰にでもあてはまる話ではなく「高齢者など日常的にたくさんの薬を服用している人に多いのですが…」ということです。

どういうことなのでしょうか。

(小野さん)
「症状がなくなって薬を飲む必要はなくなっているのに、飲み続けてしまう方がいます。症状がなさそうな場合は、こちらから『この薬、なんで飲んでるんですか?』と確認することもありますが、ご本人もわからなくなってしまっていて。その薬が実は供給不足に陥っているものだった、ということが実際にありました。飲まなくてもいい薬を飲むのはご本人の体にもよくないので、多くの薬を服用されている場合にはこの機会に減らせる薬がないか見直してみてはいかがでしょうか」

命を守る薬 どう向き合うか

命を守る薬 どう向き合うか
薬の供給不足を説明する小野さん
最後に、小野さんに今回なぜ情報提供しようと思ったのかを聞きました。
(小野さん)
「薬の供給不足はこの1年ぐらい続いていますが、なかなか患者さんに伝わらず、薬局の怠慢だと言われることもあります。不信感を持って心配しながら薬を飲んでは効き目にも影響しかねません。この報道を、現状をご理解いただくきっかけにしてもらいたいと思っています」

確かに「供給不足の実態が患者に知られていない」「もっと報道するべき」との指摘は投稿フォームの回答に多く寄せられていました。

薬の供給の回復には年単位の時間がかかるとの指摘もあり、まだまだ長引くことを前提に対応していかなくてはならない状況です。

小野さんのような薬剤師さんが各地にいらっしゃると思いますが、今回のようなアドバイスを参考にしながら、自分自身や大切な人の健康や命を守ってくれる薬と改めてしっかり向き合っていく時だと思います。

取材班への情報提供のお願い

今回はご紹介しきれませんでしたが、情報をお寄せいただいた「製薬・流通関係者」や「医師・医療関係者」の方々への取材も進めています。

医療現場への深刻な影響や「薬の安定供給」を取り戻すにはどうすればいいのか、この問題を今後も取材・発信していきます。

引き続き、以下の「NHK医薬品不足取材班」の投稿フォーム(URL/QRコード)から情報をお寄せください。
バナー画像からもアクセスすることができます。

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