噴火に備える企業はどんな施策を?
富士山麓で地震が頻発し、「富士山が噴火するのではないか」と不安が広がっているなか、一般市民以上に危機感を抱き、着々と備えを進めている大企業は少なくない。降り注ぐ火山灰から岩石、そして保険まで、各企業が本気で取り組む噴火対策に迫る。
富士山麓の山梨県南都留郡忍野村に本社工場を置く電気機器メーカーのファナックは、工作機械用コンピューター数値制御装置や産業用ロボットで世界首位のシェアを誇る企業だけに、万一噴火で機能が停止すれば世界中の関連企業に影響を与えかねない。
同社はかつて有価証券報告書の事業リスクに、「地震、富士山噴火、火災、大雪、台風等の自然災害や、長時間にわたる停電その他の事故が発生した場合に、当社の開発、製造能力に対する影響を完全に防止、または軽減できる保証はありません」と明記。2012年1月に富士五湖周辺を震源とする震度5弱の地震が発生した時には、慌ててファナック株を売った投資家も多かった。
それから9年――事業リスクから「保証はありません」の文言は消え、対策は着々と進んでいるようだ。 「当社では富士山噴火を非常に大きなリスクとして位置づけており、本社工場(山梨県)以外に、壬生工場(栃木県)、筑波工場(茨城県)などに生産拠点を新設・拡充し、生産拠点の複数化を進めています。 そのほか、保守部品の保管倉庫やサービス情報システムのサーバー設置拠点の複数化、データセンターの二重化などの対策を取っています」(ファナック広報部)
噴火によって企業が被る多大な被害に対し、“費用面での対策”を用意している会社もある。
損保ジャパンは2016年、業界初の金融派生商品「富士山噴火デリバティブ」の販売を開始。気象庁が富士山について「噴火警戒レベル3」以上、および「噴火の発生」を発表した場合に、事前に定めた一定金額を支払うという内容だ。
無人機でブロックを運ぶ
2014年の御嶽山噴火では、火口付近に居合わせた登山者58人が命を落とした。もし富士山の登山シーズンに噴火が起きれば、それをはるかに超える犠牲者が出る可能性がある。 その時に備え、日本工営や京セラなど多くの企業が共同で立ち上げたのが、一般社団法人「富士山チャレンジプラットフォーム」だ。
同法人の代表理事で、日本工営社員の田中義朗氏は、「以前は、富士山が噴火した時に登山者や観光客をどう把握し救助すれば良いのか、がまったく考えられていなかった」と話す。 「現在は、他の企業も賛同してくださるようになり、行政や国の研究機関などの協力も得て、2018年に日本工営を含む11社が集まって社団法人を設立しました。
活動としては、登山者にビーコンという発信機を持ってもらい、行動をリアルタイムで把握する調査を行なっています。こうしてデータを集めることにより、退避施設を富士山のどこに作れば良いかの判断も可能になり、被害が起きやすい場所や時間帯なども把握できるようになりました」(田中氏)
国の噴火対策も急ピッチで進められている。国交省の中部地方整備局・富士砂防事務所では、最新の技術を駆使した対策を講じている。 「富士山北麓と南麓にコンクリートブロックを合計2万個備蓄し、噴火による土砂災害が生じた際に、危険な箇所は無人機のショベルカーを遠隔操作してブロックを溶岩流や土石流などの経路に移設する計画です。
集落への到達を食い止め、被害を最小限に抑えるよう日々準備を整えております」(富士砂防事務所) 様々な対策を講じる企業や国。富士山噴火は決して与太話ではなくなってきている。
※週刊ポスト2021年12月24日号
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