進まない若者のワクチン接種

港区が実施している新型コロナワクチンの夜間接種。午後7時台は多くの人が来場していた=東京都港区芝の東京グランドホテルで

<第5波の教訓 自治体の現場から㊦>
東京都新宿区の吉住健一区長は、9月の定例記者会見でこう無念さをにじませた。「若者から大量に接種することは事実上、できなくなった」
 区長はこの3カ月前、新型コロナウイルスの集団接種で、59歳以下では20~30代の予約を先に進めると表明。行動範囲が広く、PCR検査で陽性率が高い傾向に出た若者を優先接種し、感染拡大を防ぐ狙いだった。
 しかし、国のワクチン供給が不足。区は当初の供給状況から若者や60歳以上などを優先対象に2週間で約1万4000人分の接種を見込んでいたが、その6割しか予約の受け付けができなかった。
 都内で保健所を所管する25区市への本紙アンケートによると、新宿区のワクチン接種は他の自治体より進んでいない。区内の1回目を終えた20代の接種率は68.7%(12月14日)。都の20代平均の73.6%より4.9ポイント低く、区全体の接種率が上がらない一因となっている。
 1回目を打ったばかりの男性会社員(29)は「心筋炎の副反応が心配で打っていなかった。若者の接種率を上げたいなら、ワクチンが効くことをちゃんと説明するべきでは」と話した。
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 20代の接種率は都内全体でも、年代別で最も低い。港区は9月以降、仕事帰りの若者らをターゲットに火曜、金曜に午後7時から深夜まで接種を行う。12月10日までにのべ約2200人が接種を受けている。ただ、区内の1回目を終えた20代の接種率は69.5%で、全年代で最も低い傾向は同じだ。
 区幹部は「若者は重症化しにくく、高齢者より接種率は低いと予想していた。深夜の接種を行わなければもっと低かったのでは」と分析する。
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 東京都は若者に接種を促そうと、11月1日から、ワクチン接種記録を登録する「TOKYOワクションアプリ」の運用を始めた。ワクチンの副反応などの情報を提供するほか、2回の接種を終えた18~39歳が登録すると、飲食店やホテルなどの協賛事業者が提供する飲食割引や宿泊など他年代よりも豪華な特典が抽選で当たる。
 さらに、飲食店が9人以上の団体を制限している場合、この登録証を見せることで、入店が可能になる使い方も想定している。
 だが、12月16日までの登録者は、全年代でも34万2000人でワクチン接種対象者の2.8%。協賛店舗の登録数も約2500店舗で、うち飲食店は1000店舗と都内飲食店の1%に満たない。担当者は「まだまだ少ない。認知されていない」と歯切れが悪い。
 この事業は予算総額10億円で、6億円をこのアプリの紹介などインターネットの広報啓発費に充てる。都議会の審議では「こんな税金を投じるのは理解できない」と、若者の接種率向上につながるかを疑問視する声も出ていた。
 都担当者は「若者のさらなる接種率向上を目指したい」とした上で「さらに予算を投入するのか、何が一番実効性があるのか考えたい」と語った。(中村真暁、井上靖史、原昌志)

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