「行き場のない気持ちは一生救われない」「ワクチン接種直後の死」

先月22日付本紙朝刊「こちら特報部」で頂いた読者からの反響

 新型コロナウイルスのワクチン接種直後に死亡した男性の遺族を取材し、広く救済する仕組みを作る意義や情報提供の重要性を指摘した特報面の記事(11月22日付朝刊・WEB版はこちら)に多くの反響が寄せられている。
 接種後に知人が亡くなったり、副反応に苦しんだりした人からの共感の声も多数あった。背景には、接種の有効性が訴えられる中、不安や不満を言い出しにくい雰囲気もあるようだ。(荒井六貴)

◆「大切な人のために」を信じて

 「友人の1人は、妹を接種後すぐに亡くしています。誰かの大切な人のためにという言葉を信じて接種し、人生が変わるほどの副反応や後遺症、大切な人を亡くした人の行き場のない気持ちは一生救われない」
 関東在住の女性は今月上旬、本紙読者部宛てに、そうメールを送ってくれた。
 特報面の記事は「接種直後の死 遺族置き去り」「海外で37歳男性 因果関係証明できず」「1300人超 補償給付はゼロ」の見出しが付き、ベトナムで接種した男性が直後に亡くなったこと、国内では死亡と接種の因果関係が認められず、補償が認められたケースがないことを伝えた。

◆「歯がゆい」「リスクが知られる世の中に」

 読者部への意見は、メールや電話で約40件あった。これらの中には「事実誤認を誘導する恐れがある」「デマはやめて」という批判のほか、「何を信じていいのか分からない。真実を報道して」「接種の是非を慎重に検討した報道を」などの注文もあった。
 ただ、多くは「死亡者がいるのに報道がなく、歯がゆく思っていた」「続けて情報発信を」などとした共感する受け止めだった。副反応で悩む人からの声もあり、都内の男性は「ワクチン反対派ではないが、リスクがあることを広く知られる世の中であってほしい」と強調した。

◆「被害を口にすることが、はばかられる雰囲気」

 共感の声が多いことに、東京理科大の佐藤嗣道准教授(薬剤疫学)は「ワクチンの後遺症で苦しんでいても、これまで社会的にあまり認知されてこなかった。(記事で)やっぱり自分だけではないと認識されたのではないか」とみる。
 「ワクチンに批判的なことを言うと『反ワクチン派』とたたかれるのもあるだろうが、被害を口にすること自体が、はばかられる雰囲気があるのだろう」
 厚生労働省では、接種と死亡の因果関係を巡る議論が続いている。専門家でつくる「副反応検討部会」は今月3日に開催。死亡報告はさらに増え、計1368人(11月14日時点)になった。因果関係には8人が否定され、他の人は全て「評価できない」とされた。認められた人はいなかった。厚労省は「接種が原因で死亡したという事例はない」との立場を今も変えていない。
 今月9日には、副反応による補償について専門家が議論する「感染症・予防接種審査分科会」も開かれ、初めて死亡した人に対する検討もされた。26歳女性、96歳女性、74歳男性の3人だが、判断は先送りされた。死因は明らかにされていない。
 補償の申請はこれまでに約700件あった。うち健康被害で医療費給付などが認められたのが290件で、死亡による補償が認定されたケースはない。

◆「不安に応えてこそ、信頼性が出る」

 薬害問題に詳しい水口真寿美弁護士は「国が大々的に接種を推進しているのに、被害が起きた時の冷淡な対応に落差がある」と指摘。特報面の記事に反響が大きかったのは「これだけ多数の人が短期間に接種したことはかつてなく、それだけに被害も人ごとではないと感じられているのではないか。身近に被害者がいればなおのことだ」とみる。
 そのうえで「国はワクチンに対する不安や不満の声を大事にすべきで、こういう声に応えてこそワクチンに信頼性が出てくる」と訴えている。